サイケ研究室「マイセリウム」とは

DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)とは何か?私たちの意識にどんな影響を与えるのか

日本国内においては、シロシビンおよびそれを含むキノコは「麻薬及び向精神薬取締法」に基づき 規制薬物(麻薬)に指定されており、所持・使用・譲渡・栽培などが厳しく禁止されています。

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また、本サイトの内容は医療的助言を目的としたものではありません。ご自身の健康に関する判断は、 必ず医療専門家にご相談ください。

デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:DMN)は、私たちの脳の機能ネットワークの一つであり、「自分らしさ」や「悩み」と深く関係しています。

サイケデリクスが私たちにどのように作用するのかを説明するうえで、このDMNという概念を避けて通ることはできません。

この記事では、DMNとは何か、そしてそれがどのように意識と結びついているのかを解説します。

デフォルト・モード・ネットワークとは脳が“何もしていない時”に働き、自我を形成するネットワーク

DMNは、2000年代初頭のfMRI研究を通じて特定された脳の機能ネットワークのひとつです。

外界の刺激に注意を向けていないとき、つまり「内面に意識が向いているとき」に活性化し、自己認識、自伝的記憶、他者の心の理解(メンタライジング)、未来のシミュレーションなど、「内省的な認知」や「自己の再構成」に関わる処理に関与しています。

  • 自己認識:自分が誰であるかを把握する感覚
  • 自伝的記憶:自身の過去の出来事を想起する能力
  • 他者の心の理解(メンタライジング):他人の考えや感情を想像する能力
  • 未来予測やシミュレーション:これから起こり得ることを想像・計画する能力

DMNは過去の出来事(経験)と未来に起こり得ることを想像しながら、過去と未来の軌跡の中で「私とはこういう人物である」という自己認識を生み出します。

DMNは「私」という感覚、つまりエゴの中枢とも言える存在であり、「私」という存在の連続性を保ち、人間が人間らしく生きるための認知基盤を支える重要な働きを担っています。

 

デフォルト・モード・ネットワークの過活動によるメンタルヘルスへの影響

DMNは「私とは何者か」を形成するうえで不可欠なネットワークですが、その活動が過剰になると、かえって心の健康に悪影響を及ぼすことが、近年の研究で明らかになっています。

特に、うつ病や不安障害の患者の脳では、DMNが過活動しているという報告が多くあります。この過活動状態は、自己への過剰な注意や反省、否定的な思考を繰り返す「ネガティブな自己反芻(negative self-rumination)」を引き起こします。

たとえば、「なぜあのとき失敗したのか」「自分には価値がないのではないか」といった思考が何度も再生されることで、感情の回復が妨げられ、うつ症状が長引く原因になります。

こうした反芻思考は、脳内のDMNが常に「自分の内側」にアクセスし続けている状態と対応しており、自己意識が自分を傷つけるループに陥っているとも言えます。

このDMNの過活動を抑える手段として、注目されているのがマインドフルネス瞑想です。
マインドフルネスとは、「今この瞬間」に注意を向けることで、思考の反芻から意識を切り離す実践です。研究では、マインドフルネス瞑想中やその訓練を受けた人々の脳で、DMNの活動が低下していることが確認されています。

経験豊富な瞑想者は、複数の瞑想法において DMNの主要領域(内側前頭前皮質・後帯状皮質)が休息時よりも明らかに非活性化する ことが fMRI で確認されています。

出典:Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity

デフォルト・モード・ネットワークとサイケデリクス:意識の解放とは何か?

近年の脳科学の研究により、サイケデリクス(幻覚剤)とDMNの関係が明らかになってきました。サイロシビンやLSDといった古典的サイケデリクスは、脳内のセロトニン2A受容体に作用することで、DMNの活動を一時的に沈静化させることが、fMRIなどの神経画像研究で確認されています。

このDMNの活動低下とともに、使用者の多くが体験すると報告しているのが、「自己の溶解(ego dissolution)」と呼ばれる状態です。

これは、普段自我を形成しているDMNの活動が沈静化することで、「私」という自我の枠組みが一時的に崩れ、自己と他者、自己と世界との境界が曖昧になる体験です。

自分という存在が世界に溶け込み、より大きな全体に一体化するような感覚はまさに神秘体験と呼ばれるものの特徴です。

この状態では、「私はこういう人間である」という固定的な自己認識が一時的に和らぎ、自己という枠組みに縛られていた意識が解放されるように感じられるのです。

また、サイケデリクスによってDMNの制御が緩まると、脳内の他のネットワーク間の通信が活発化します。普段は連携しないような領域同士がつながり始め、思考や感覚の新しい結びつきが生まれるのです。これは神経科学における「神経可塑性(neuroplasticity)」の一形態とも捉えられます。

実際、サイケデリクス使用後の脳では、より自由で柔軟なネットワーク構造が一時的に出現し、これが創造性の向上、問題解決の新たな視点、そしてセラピー的な気づきにつながっていると考えられています。

シロシビンの影響下にある個人は、自発的な創造的思考と概念的に関連する構成要素である「洞察力」について有意に高い評価を報告した(例:「以前は困惑していたつながりについての洞察が得られた」、「非常に独創的な考えが浮かんだ」)。

出典:Spontaneous and deliberate creative cognition during and after psilocybin exposure | PMC(2021)

まとめ:DMNを知ることは、自分を知ること

私たちの脳には、「何もしていないとき」に自然と働くモードが存在します。それがデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)です。自己認識や内省、記憶、他者の理解といった“人間らしい思考”を支えているこのネットワークは、いわば意識のデフォルト設定とも呼べるものです。

このDMNを理解することは、私たちが普段無意識に行っている思考や感情のパターンに気づく手がかりになります。つまり、「自分とは何か」への気づきの第一歩となり得るのです。

サイケデリクスはこのDMNの構造を一時的に解体し、脳のネットワークを流動的にすることで、新たな視点や認知の再構築をもたらします。これは、単なる「変性意識体験」ではなく、固定化された自己像や思考様式を見直す機会にもなり得ます。

サイケデリクスの本質は、外から何かを“与える”ことではなく、すでに自分の中にあるものを再配置し、新しい見方を可能にする“再構成”のプロセスにあります。その中心にあるのが、DMNの一時的な沈静と、それに続く脳の再編成なのです。

だからこそ、DMNを知ることは、自分という存在の仕組みを理解することであり、サイケデリクスの本質を理解するための重要な鍵でもあるのです。

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